祖母がボケ始めた頃、海外在住だった私は一時帰国して、和歌山まで 遊びに行きました。二年程会っていなかったのですが、以前はしゃきっと
していて厳しかった祖母が、仏さんみたいな顔で笑いかけてくれて、電子 ジャーに残っていたご飯でおにぎりをつくってくれました。「食え、食え」
と言って。
祖母と同居していて、一緒にいた従弟が「おばあちゃん、そのご飯、もう
古いんちゃうかー」と明るく言って、私の方をちら、と見て「食わんでええ」
と小声で言いました。でも私はどうしても食べたかった。
- だから、海苔も 塩味も何もついていない、ご飯を丸めただけのおにぎりを、
- 口にほおばり ました。電子ジャーの中に何日残っていたのか知りませんが、
- ご飯はぽろ ぽろで変色しており、確かにおいしくなかったんですが・・・。
- でも祖母が嬉しそうに私のことを見ていてくれたので、こぼさないように
頑張って噛みました。
それが祖母とのこの世での別れになりました。だから今でも、電子ジャー
- に 残ってしまって、ちょっと古くなったご飯を見るたびに涙がでそうに
なります。ぽろぽろのご飯の舌触りも、絶対に忘れないと思います。
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