失恋について
ぼくの友人が、ある女性に激しい片思いの恋をした。 結果的に実らず、今ではその彼女は東京で別の彼氏と暮らしている。 ところがそいつが突然会社も辞めて 生まれ育った大阪の地から東京に引っ越してしまった。 理由を聞いたところ彼はこういった。 「彼女が幸せに暮らしているならそれでいい。 住所も知っているけど会いに行ける訳ないし絶対行かないと思う。 東京に行くといつもこう思うんだ。 あの人が息を吐くだろ。俺が息を吸うだろ。 それはつまり一つの空気をやりとりをしてるという事なんだ。 雨がふったら同じ雨に濡れるという事なんだ。 ホテルの窓から夜景を見ると、いつも思う。 あの光のどれか一つがあの人の住んでいる家の窓の明かりだ、と。 彼女がいないということは俺が存在していないという事と同じ事なんだ。 彼女が近くにいるというだけで生きていける。 大阪にいるとね、それがないんだ。 死んでいるのと一緒なんだ。 だから東京に住むことに決めたんだ」 僕はこれを聞いて不覚にも落涙しそうになった。どうしようもない奴だ、と思った。そんな糞の役にも立たないセンチメンタリズムをかかえていて、どうやって生きていくつもりなのか、と腹も立った。 頭ではそう考えているのだが、身体の奥のどこか不可視の部分がざわざわと揺れ動いて共感を訴えてくるのをどうしても止めることができなかった。 らも氏のエッセイから |
中島 らも 集英社 (1992/07) 売り上げランキング: 139,518 おすすめ度の平均:
私にとって、大事な本です。明るくなれます。 ロマンチック |
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