「一瞬の光」




人は生れ落ちた瞬間、誰もが祝福の光を浴びている。幾筋もの光が、困難な生を導くために、それぞれが歩いていく道を照らしている。

生きることは次第にその光を見失う行為だ。

星のように無数にきらめいていた光はつぎつぎと消え、やがて三つになり二つになり、ついに一つになる。そしてその最後の光が絶えた瞬間、人は闇に呑み込まれ自らを喪失する。


生の最中、我々は死の中にいる。

誕生の瞬間から常に人間は、いつ死ぬか分からない可能性がある。そしてこの可能性は必然的に遅かれ早かれ既成事実になる。

理想的にはすべて人間が人生の一瞬一瞬を、次の瞬間が最後の瞬間となるかのように生きなければならない。

次の瞬間が最後の瞬間であるのなら、どの瞬間も光輝く至上の時間なのだ。


本当に愛し合っていれば、セックスは一瞬一瞬があたかも小さな死なのだと彼女は言った。

まるで心中したような気持ちになって、嫌なことは消えうせ、自分さえも忘れることができるのだと。

そして世界は美しく姿を変え、この世のありとあらゆるものすべてを愛することが可能になるのだと―。


次の瞬間が死であるからこそ、いまこの瞬間を失ってはならないと私は生きてきた。しかし、彼女は愛によって一瞬一瞬を小さな死として受容できるのだ。

それは男には獲得できない感覚だ。男はどうあがいてみても一度きりの生をただ遮二無二駆け抜けるしかない。

だが、女は自らの生を瞬間瞬間で再生していく。


一瞬の光から



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